寄り道はほどほどに
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


記録的な豪雪に見舞われた北日本のみならず、
関東や関西の平野部にまで、
数年振りの積雪をもたらしたこの冬だったものが。
ほんの数日前までの惨状も記憶に新しいまま、
立春の声を聞いた途端という間合いにて、
いきなり…直前までの極寒はどこへやら、
梅どころか桜だって咲きかねぬほどに気温が上がった。
元来だったら、暦の上での春なんてのは名ばかり、
さすがは真冬の底で
“更に衣を着る”更衣ともいう二月なのにと、
なんでどうしてとの不審を覚え、怪訝に思いはしたものの。

  それでも…暖かいのは正直言ってありがたい。

コートやダウンはタンスの中でのお留守番に回し、
これでやっと ミニにレギンスという脚を長く見せる装いが出来るとばかり、
妙齢の女子たちは数ヶ月ぶりの軽快ないで立ちになり、
気の早い娘さんたちの間では、
この春のトレンドは?…なんて話題が、取り沙汰されかかってたその矢先。

 「選りにも選って、三連休にぴったり重なって、
  極寒が戻って来ましたものね。」

 「………。(頷、頷)」

連れの言いようへ、
無言のままながら“そうそう”という相槌を打った、
金の綿毛が軽くかぶさった紅玻璃の双眸と、
色白な頬が印象的な美少女の逆側のお隣りで、

 「まあ、
  それが明けてのバレンタインデーへのチョコ作りには、
  打ってつけだったかも知れませんが。
  ………あ、これ可愛いvv」

猫目の少女がほわりと微笑って頬をゆるませる。
ほぼ壁一面を埋めている、
上下の間隔のずんと狭いフックへずらずらと、
色とりどり、デザインもとりどりの、
様々なタイプの愛らしい靴下が居並ぶ棚に向かい合い、
お揃いのコート姿をした女子高生が三人ほど、
どれがいいかなと、結構な集中を見せつつの品定め中。
蛍光灯の乾いた明かりが白々と照らし出す店内に流れるは、
有線だろう、軽快な J-POPのBGMで。

 「う〜ん、同じのの色違いで3足とするか、
  でもでも他への着回しを思えば、
  全然違うのを組み合わせた方がいいのかな。」

3足で幾らというバーゲンコーナー前には、
他にも似たような年頃の少女らが、
結構な時間を割いて立ち止まってゆくのが見受けられ。
冬場はブーツが多いその上、
数年前に流行したウェスタン調ででもない限り、
ソックスになんて無縁かといやそうでもなくて。
ショートブーツであったとて、
足首までないような短い丈のを、
あまりに寒いからと外からは判らないように履くこともあれば、
森ガールや山ガールじゃあなくたって、
パンストにパンプス一辺倒とはならずの、
トレッキングブーツ風のや スニーカーなぞ、
お転婆カジュアルなアイテムを選ぶこともあるお年頃。
となれば、
可愛らしい靴下をブーツから覗かせ、
ミディ丈のスカートや七分丈のレギンスに合わせるのも、
もはや定番だといえて。
赤毛の少女の傍らからも、同調する声が立ち、

 「ですよね。
  アタシもトレーニング用のであれ、
  ついつい可愛いのを選んじゃいますもの。」

編み込みをカチューシャのようにし、
可憐にまとめた さらさらの金の髪に、
すっきりさらした色白な横顔の麗しさ。
そんな風貌でありながら、
剣道部所属でしかも主将という、
勇ましき女傑でもある、
草野さんチの七郎次お嬢様が手に取ったのは。
そんなお言いようをしたにしては、
パルキーセーターのようなゴム編み風三ツ折タイプの、
少し厚手のいかにも真面目な型のそれ。
というのも、

 「スケートリンクって、足元から寒いっていいますしね。」
 「やっぱりそうなんでしょうかね。」

うう〜んと眉をひそめた ひなげしさんこと平八が、
最初に手にしたウサギの刺繍のついたのを、
微妙に残念そうにしつつも元あった位置へと戻してしまう。
そんな彼女の落胆ぶりをどう解釈したものか、
寡黙なお友達が、
すぐお隣りから気遣うような眼差しを向けて来たので、

 「………。」
 「…あ、いえいえ。
  どんなの履いても構わないそうですよ?」

学校行事という枠から、
とんでもなく外れてそうな代物でない限りはと続けかけたものの、

 「ですが、それはちょっと派手かも知れませんね。」
 「…? (そうか?)」

金ラメレースの縁飾りにスパングルのお花つき、
黒の編みタイツ風ハイソックスを手にしていた紅バラさん。
いつからそんな趣味になったのでしょかと、
何へか消沈しかかってた気分までもが
勢いよく吹っ飛んでしまった平八だったのと対照的、

 「バレエのレッスンにも履けるかもって思ったのでしょう?」

やはり ちょっぴり眉を下げつつも、くすすと微笑ったのが七郎次。
レッスン用のはそうそう派手にする必要なんてないはずが、
単調で禁忌的なことへの一種のガス抜き、
若しくは気分を高揚させるため。
練習用のグッズに、
可愛らしい小物や必要ないほど華美なもの、
ついつい選んでしまうのはよくあることだそうで。

 「〜〜〜〜〜。///」

図星だったか、
七郎次と同じほどに色白な、
すべらかなその頬、
さあっと真っ赤に染めた久蔵だったが。

 「…………。//////」

その気配の中に、
ちょっぴり煮え切らないものが嗅ぎとれた白百合さん。
青玻璃の双眸瞬かせ、悪戯っぽく微笑いつつ、
んん?と小首を傾げて覗き込めば、

 「……ひょーごが。///////」

久蔵がずっと幼いころ、
まだインターンだった榊せんせえ、医大の帰りなんぞに、
バレエ教室まで迎えに来てくれたことがたまにあったのだが。

 「ストーンのバレッタや、リボンのクリップを。」
 「下さったんですか?」
 「……。(…頷)////////」

他のお嬢様たちが、
それは可愛らしい髪どめだの刺繍の入ったレオタードなぞ、
お互いの持ちものの愛らしさを褒め合ってたりするのをたまたま見かけ。
それに引き換え、こちらは…本人に関心がなかったからなのだが、
体操教室にお通いかと間違えられても不思議はないほど、
質素というか飾りっけなしな いで立ちの、
久蔵お嬢様なのに気づいたその折から、

 『そうさな、俺は専門家ではないけれど。
  舞台に立ったときのようなという、
  気分作りも必要なのかも知れぬしな。』

勿論のこと、基本に添うた技術が最も大事なのだろうけれど。
お姫様とか妖精とか、役柄に合わせた雰囲気作りには、
可愛らしいアイテムを身につけるのも効果的なんじゃあなかろうかと。

 「役をとれたらご褒美に、
  こういうのを たびたびくれるようになった影響?」
 「〜〜〜〜。//////」

わざわざ言葉にしてもらったことで、
あらためて感じ入ることがあったのだろう。
やさしい仲良しさんのお声には、
冷やかすような気色はなかったが、
それでも真っ赤になっての目一杯 含羞む久蔵本人以上に、

  ―― うあ、そうだったのかぁ///////、と

訊いた当人の七郎次が、
口許覆って真っ赤っ赤になってりゃあ世話はない。

 「〜〜〜〜。/////////////」
 「シチさん、シチさん。」

どんなに大暴れをして武勇伝を重ねても、
根は純情なヲトメということか。
たまたまだろう、
同じコートを着た、間違いなく同じ女学園の子だろう数人が、
こちらの通路へ入りかかり、
だがだが、こっちを見やるとあわわと引き返したのを。
視野の端っこに捉えた平八、

 “またぞろ仲たがいをなさってたなんて、言われなきゃいんですが。”

明日の噂が今から案じられつつも、
シチさんどうか落ち着いてと、
久蔵の背中ごし、もう一人の金髪娘をいなしてやれば、

 「だ、だって、久蔵殿と言ったらば。」

好きなウィンタースポーツは何ですか?と訊かれて
“寒稽古”と答えるようなお人じゃあないですか、なんて。
ちょみっとお声を潜めさせつつも、
人差し指をピンと立てての、
さも重要なことのよに、鹿爪らしく言い切る白百合さんもまた、
ある意味、相変わらずの天然ぶりで。

 “どっかで聞いたネタだと思ったあなたは、本館からのお客様ですね。”

じゃあなくて。
(笑)

 「いい傾向じゃないですか。」

バレエなんてな、感性の要るだろ芸術舞踏にたずさわっているにしちゃ、
何かというと真っ先に駆け出してって、
ホウキや指し棒をぶんぶん振り回すわ、
身の軽さを生かしての蹴り技を繰り出すわの、
とんでもなく暴れん坊な紅胡蝶…もとえ紅バラ様。
そんなお人が実は実は、
可愛らしいところもたっくさんお持ちだっただなんて、
それこそ重畳、と。
こちらは驚きよりも喜ばしいことよという感慨に、
はやばやと至っていたらしい ひなげしさん。

 「それよりも。
  スキー合宿じゃあなくなったのは善しとして、
  だったらスケートってのは誰の発案なんでしょうかね。」

こっちの方が重大だと言わんばかり、
憤然とし、幼子のように頬を膨らませる彼女なのへは、

 “…アタシがマラソンへ憤慨したのへは、
  気持ちは判るが大人げないって顔してたクセに。”

苦笑の絶えない七郎次が、
その内心にて、ついついそんな風に呟いてしまったほど。

  そう。
  今日の寄り道は、
  来週催されるスケート教室のための準備に他ならず。

彼女らが通う女学園では、例年通りだと一月末辺りに、
二年生たちが“スキー合宿”という宿泊学習に出掛けるのが通例で。
体育の授業の一環でもあるがため、全員参加の必修科目になっており。
初心者コースか中級者コースにて、
ゲレンデで過ごすだけで良いっちゃ良いのではあるが、
この冬は、冒頭でご紹介したように、尋常ではない積雪が各地を襲っており。
女学園が毎年お世話になっているスキー場も、
微妙に別荘地のおまけ的な規模のそれなせいか、
誰ぞが毎日すべっているようなところじゃないことから、
あっと言う間に4m近い雪に埋もれてしまって、
とてもじゃないが滑降不可能とのこと。
そこでと代替地を探してみたものの、
今年はどこでも似たり寄ったりなご事情のところが多く。
営業しておいでなところはところで、
そういう事情の方々が集中したのか大層込み合っており、
どこへと決まらぬまま日はどんどん過ぎゆきて。

 「スキー合宿は中止とあって、喜んでおりましたのにぃ。」

ご近所のリンクでのスケートに差し替えられたのが口惜しい〜っと、
小さな拳を胸元へ固めたひなげしさん、
どうやらスキーやスケートは苦手らしい。

 「シチさんは苦手ってワケでは…。」
 「ないですね。」

そうであることを申し訳ないとでも言いたいか、眉を下げてのお返事で。
何でも、日本画家の父御が雪景色を描くためにと、
毎年とまでは行かぬながら、結構雪山には足を運んでいたのだそうで。
父上がお仕事に勤しんでいる間、
母上とともに、スキーやスケートに興じた結果として、
まま、困らぬ程度にはこなせるとのこと。
そして久蔵はと言えば、

 「…覚えておりますよ。
  スケートリンクの改修が終わってのこけら落とし、
  エキビジションショーが催された中へ紛れ込み、
  リンク所属のフィギュアの選手に混ざって、
  それは綺麗なスパイラル描いた“謎のお嬢さん”って、
  しばらくほど話題呼んでましたものね。」

さすがはバレエ界の新星、
落としたそのまま、通りすがりの人に知らず蹴り込まれ、
リンクの半ばへ飛び出してってしまったヘアピンを拾って来ただけのことで、
そうまで華やいだ話題にしちゃうとはと。
約一名、一緒にエキビジションを観に来ていた保護者代理殿以外、
皆様、ただただ感服してしまった出来事があったの、
ひなげしさんから思い出されているほどに。
スポーツ万能という肩書に遺漏なし、
スキーでもスケートでもお任せの紅バラさん、と来て。

 「わたしだけでしょか、こんなにも“ヤダなぁ指数”が高いのは。」

他のスポーツでは…こちらの二人ほどではないながら、
それでも運動音痴ではないだけに、それもあっての口惜しいと、
表情豊かな口許を、これでもかとひん曲げて見せる平八なのへ、

 「そうまでイヤなの?」

自分も苦手はあるものだからか、
こういう種の苦手がどれほど苦行かには理解もある七郎次と。
こちらさんは、スポーツには苦手はないものの、
何かというと世話をかけてる平八の窮地らしいと、
そこはさすがに察したらしく、

 「……。」

細い眉をきゅうと不安げに寄せている久蔵とから見つめられ。
ありゃまあと、不満顔を弾かれたひなげしさん。
そこから…口許をほころばせると、

 「まあ、何につけ“初めて”ってのはあるもんで。」

苦手だ苦手だって逃げ回ってたものの、
やってみたらば気に入るかもしれないしと。
コートの襟元へ、小さな顎先埋めるよにして、
くすすと微笑った彼女へは。

 「あ……vv」
 「…。/////」

金髪娘二人もまた、ほわりと笑顔をこぼした共鳴ぶりが、
何とも微笑ましい光景だったりし。


  ―― そうそう、こういう想像はどうでしょか?


気を取り直した平八も加わって、
楽しげなコーデュネイトは盛り上がり。
防寒用の靴下や手套、
イヤーマフにレッグウォーマーなどなどを買い込んでから、
休憩にと立ち寄ったスタンドカフェにて。
カフェラテやマキュアートのカップを手に手に、
内緒のお話へ細っこい肩を寄せ合ったお嬢様たち。
言い出しっぺの白百合さんが、
二人のお友達を交互に見やってから囁いたのが、

 「ヘイさんだったら、ゴロさんが、
  転ばぬようにって手取り足取りエスコートしてくれるとしたら?」
 「う…っ。///////」

頼もしい腕や大きな手で、支えてくれるんですよ?
上背もおありだから、
お隣りに立ちながら余裕でお背
(せな)へも腕を回してもらえる。
足元不安で転びかかってもがっしと掴まえてて下さって、

 「うあ、それって夢のようじゃありませんかvv」
 「でしょでしょ?」

想像だけじゃ飽き足りないなら、
スケート教室は三月の頭ですから、
それまでに二人でリンクへ練習に出向くというのも有りなのでは?と。
七郎次が美味しい話を吹き込んだことで、

 「そっかぁ、それがあったかvv」

一気にご機嫌が復活した平八の傍ら、

 「〜〜〜。」

あれれぇ? 急にテンションが下がったお人もおいで。
どうしたどうしたと、
マキアートで火傷でもしちゃったかなと、白百合さんが案じれば、
うつむいたせいで綿毛の前髪も降り、目許が隠れてしまった紅バラさん。

 「…俺にはその手は使えない。」
 「ありゃりゃ。」

スポーツ万能少女だから、エスコートもフォローもしてもらいようがないと、
今頃 気づいて愕然としてしまったらしくって。
こなせること、良い子だ偉いぞと褒められて伸びて来たお嬢さんの、
こればっかりは意外な盲点。


  恋するヲトメ、いろんなことへ心が浮き沈みするようで。
  見守る殿方には、是非とも細心の注意をと、
  心浮き立つ春を前に、重々お願いしたい所存です。







   〜Fine〜  11.02.20.


  *凄んごい偏頭痛に見舞われつつ書きました。
   忘れたころにやってくる難儀な頭痛。
   眼精疲労か、それとも寝相が悪かったせいか。
   どっちでもいいから早く治まって〜〜〜。

  *それはともかく。
   雑貨屋さんとか文具店とかホームセンターとか、
   グッズの棚の前で“きゃ〜ん・可愛い☆”なんて
   きゃぴきゃぴ言ってる女子高生を書いてみたくなりました。
   でもなあ、この人たちの場合、
   ジャンルによっちゃあ微妙に焦点がずれてたり、
   何でそこかというよな“斜め着地”とか、
   そういう不審なこと、しまくりなんだろうなとも思います。
   だって中身は ところにより“おっさん”だから。
(笑)

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